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チャーチオルガンスタッフブログ

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パイプオルガンは、革を貼り替えます!??

皆さんご存知のように、パイプオルガンは寿命の永い楽器です。ヨーロッパでは500年以上前に製作されたオルガンが今でも現役で鳴っています。それは500年の間、代々引き継がれたメンテナンスによって寿命を保っているのです。余談ですが、数年前、イタリア・ボローニャの歴史的オルガンの修復の仕事で、その500年使い続けられたパイプを触った時は、さすがに手が震えて緊張しました。

さて、オルガンの素材は殆ど金属、木、革、この3種類の素材で出来ています。金属は主にパイプ(錫・鉛など)とネジ類やアクション(鉄など)に使用され、木はケース・鍵盤・風箱など適材適所で広葉樹・針葉樹を問わずあらゆる樹種を使います。そして革は主に羊の革を使い、ふいごや弁、木管パイプなど、あらゆる風漏れ対策に使用します。これらの素材で唯一500年持たないのは羊の革、ですので20年から50年毎に貼り替えなければならないのです。現在のように化学的な素材が無い時代、風漏れを防ぐ唯一の素材が革で、現在でもこの伝統は守られています。今回ご紹介する作業は、低音用の木管パイプ上部の蓋のパッキンに使用されている革の貼り替えです。

パイプオルガンの裏側、裏パネルを外して、両サイドの長い木管を取り始めました。内部中央には金属パイプが見えます。

横のパネルが外されています。これから前面左右の木管パイプを外します。真ん中は金属パイプ。

木管パイプを出しました。写真手前は木管下部の足、ここから風が吹き込まれます。

全パイプの蓋を取りました。26年経った革が劣化しポロポロ落ちてきます。

ノミを使って劣化した革を剥がしています。

こちらはまるまる羊1頭から取った革を裁断し、革貼りの準備です。


接着効果を高めるため、裁断した革の端っこが薄くなるように革専用の刃物で漉(す)いています。とっても難しい技で職人技が試されます。

角部分を切り落として革貼り準備OK。革の下地にはフェルトが貼られています。

着々と革の貼り替えが行われています。接着には昔ながらの膠(にかわ)を使います。膠はぬるま湯で剥がすことが出来るので数十年後の補修でも作業がたやすくなります。

風が漏れなければ良いので、蓋の周辺、つまり木管の内側との当たり面だけに革を貼ります。

こちらは高音用の蓋、蓋の下面に革が無いと音質向上にもなります。通常は作業の簡便さから全面に革を貼りますが、今回は音質向上を優先させパイプとの当たり面のみ貼りました。

革貼り作業が終わり、パイプを入れ始めました。真横からの写真、中の木管パイプが見えます。

全パイプが収まって最後に調律。作業完了です。

                                        河合楽器製作所 オルガンビルダー 西岡誠一



パイプオルガン?

パイプオルガンはパイプに空気を送って音を鳴らすオルガンで、アコースティック楽器です。パイプオルガンの音を電子オルガンで再現したものはチャーチオルガン、またはクラシックオルガンと呼ばれます。オルガンの仕事をしている我々の頭の中では、これらははっきりと区別されています。

ところが、お客様から「パイプオルガンの事で・・・」と相談を受けお話を聞いていると、実はチャーチオルガンの話だったということは良くあります。一般的にはまだパイプオルガンとチャーチオルガンの区別は、はっきりとは認識されていないようです。

ピアノの世界でも、電子ピアノ(デジタルピアノ)を普通に「ピアノ」と呼ぶ人は多いようです。私の頭の中では、ピアノと言えばグランドピアノかアップライトピアノの事で、電子ピアノは電子ピアノでしょう!と言いたくなるのですが、世の中の認識は必ずしもそうではないようです。

電子楽器が普及することで、元々の楽器と区別なく楽しまれているのは良いことなのかもしれませんね。電子楽器は楽器入門のハードルを下げてくれるので、楽器を楽しむ人たちが増えれば、それだけ音楽も世の中に広まるというわけです。


通奏低音

通奏低音という言葉を聞いたことがありますか?本来はバロック音楽で使われる伴奏形態のことを言うのですが、「通奏低音」という言葉のイメージが独り歩きして、本来の意味とは違った形で比喩として使われることが多いのです。「通奏低音のように響いてくる・・・」とか、「通奏低音のように鳴り続ける・・・」とか、何か低い音がブォーンと鳴っているような感じで捉えられているようですが、実際に意味することろは違います。

では具体的にどういうものかと言うと、音楽を楽譜に書き表す際に全ての音を音符として記載するのではなく、基本的には上段にはメロディーを書いて、下段には伴奏の最低音のみを記載し、そこにハーモニーとして欲しい音を数字(度数)で書き込み、演奏者はそれを見ながら即興で演奏するというものなのです。今のポピュラー音楽で使うコードネームの先祖みたいなものが通奏低音なのです。


通奏低音はオルガンやチェンバロのような和音を出せる楽器が担当し、更に低音の単音楽器が加わることもあります。使われる音は毎回同じではなく、状況に応じて音の重ね方が変わったり、音数が変わったりします。コード進行に合わせ、更に他の楽器の旋律に呼応して即興するわけなので、ジャズの精神に近いものがあります。

正に演奏者のセンスが問われるのです。大事なことは決して出しゃばらず、しかし無いと寂しいという絶妙な役割を演じるのだとか。うーん、バロック音楽、深いですねえ。



パイプオルガン移設工事の様子

パイプオルガンは息の長い楽器です。ヨーロッパには500年以上前に造られたオルガンが今も現役で鳴っている教会があります。そんな長寿命のパイプオルガンですから、建物の方が先に寿命を迎えることも多くあります。今回、紹介する教会は、今を時めく”虎ノ門ヒルズ”のお膝元、港区の日本基督教団芝教会です。再開発事業のため教会堂が新しく建て替えられることになり、オルガンは一時別の場所に保管されました。日本は欧米に比べるとパイプオルガンの歴史が浅いので、オルガン移設は珍しい出来事です。早速その工事の様子を紹介しましょう。


解体前の旧教会内部、バルコニーに設置されたパイプオルガン、これから解体作業です。



全パーツが買解体され段ボールに梱包されました。ケースの外枠は立てかけてあります。これらは新しい教会が完成するまでの期間、別の場所に大切に保管されます。



新しい教会が完成。いよいよ搬入作業です。奥にそびえているのは虎ノ門ヒルズです。



礼拝堂を養生し、全パーツが搬入。ご覧のように会堂内全体を使わせていただきました。



礼拝堂の前方左側、本体の布基礎の位置決め。後で修正できないのでここが肝心なところ。



布基礎に合わせて外枠を取り付けて行きます。木部の凹凸を合わせ固定します。



後部とサイドの枠が決まりました。これから中身が少しずつ組み立てられて行きます。



風を送るモーター(左下)と風が通るダクト(黒いホース)の一部が取り付けられました。



四角の重い風箱(奥が第2鍵盤用、手前が第1鍵盤用)の上にスライダー*を取り付けます。
*穴が開いている細長い板。上下の構造物に挟まれ、左右に動いて風の通り道を開閉させます。



コンソール部分の取り付け。画像は鍵盤の裏側です。キーの細かいアクションが見えます。



天井・コンソール・全フレーム組み込み完了。手前に積み上げたパイプはペダル用の木管です。



右のペダルキーから伸び90°曲がって奥のペダルの風箱に向かって地を這うアクション。



上の写真の外側から撮影。ペダルアクションを下から上部のペダルの風箱に繋げています。



手鍵盤用のアクション。薄くて細長い木製のトラッカーは手で簡単に折れてしまうほど繊細で軽く出来ています。そのおかげで鍵盤のタッチをパイプまで繊細に伝えることが可能です。



鍵盤から伸びてきたトラッカーの最終地点、パレット(空気弁)に辿り着きました。キーを押すとこの弁が開き、風が通ります。スライダーが開いていれば上に風が通りパイプが鳴ります。



奏者が手元でスライダーを開けるためのストップアクションを取り付けています。



ペダル鍵盤用の重たい低音部木管パイプ(Subbasso 16')を入れ込んでいます。



ペダル用パイプが収められました。次は手前のラックに手鍵盤用のパイプを入れて行きます。



パイプを取り出して音色別に整理してあります。今度はこちらを入れ込みます。



パイプを1本1本、入れる場所を間違わないように丁寧に入れ込んでいきます。金属パイプは錫と鉛の合金で、ハンダとほぼ同じ素材なので大変柔らかく、扱いは慎重に慎重に。



正面のパイプは特別に丁寧に仕上げてありますので、手袋をはめて入れ込みも慎重に行います。



最終工程である全パイプの調律も完了しました。新しい礼拝堂にとてもよく馴染んでいます。



新しい教会の奥は新しいオフィスタワー。オルガンは新しい環境で再スタートを始めました。

KAWAI オルガンビルダー 西岡誠一 記





困った時のお問い合わせ

緊急事態宣言が全国に拡がり、なるべく外出を控えなければならない現在、必然的に自宅で過ごす時間が増え、今まであまり触れる時間が無かった楽器とじっくり向き合うようになる方もいらっしゃるでしょう。また、当てのない時間が増えて新たに楽器を始めてみたいと思う方もいらっしゃるでしょう。

しかし、何か聞きたくても外出は気が引けるし、楽器店も営業自粛しているとどうしようもありませんね。そういう時は、カワイのウェブサイトから「お客様サポート」をクリックして、「お問い合わせ」のフォームをご利用ください。

お使いのオルガンの操作方法や、新規購入のご相談など、何でも構いません。お気軽にお問い合わせください。こちらからも直接入れます。





ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン・チャレンジ

新型コロナウイルスと闘っている人たちを勇気づけるために、ヨーロッパ各国のラジオ局が相次いで「You'll Never Walk Alone(人生ひとりではない)」という曲を流して結束を示したことが先日話題になりました。

この曲は、元々は『回転木馬』というミュージカルの曲で、多くのアーティストによってカバーされました。また、特にイングランドのサッカークラブ、リヴァプールFCのサポーターソングとしても有名で、その他多くのサッカークラブのサポーター達にも歌われています。

そこで、グローバル・オルガン・グループでは、この曲をオルガンで演奏した動画をインターネットにアップするチャレンジを始めました。これらの動画はヨハネスのフェイスブックページで見ることが出来ます。

https://www.facebook.com/johannus.orgelbouw

このチャレンジは誰でも自由に参加できます。どんなオルガンでも構いませんし、演奏の巧拙は関係ありません。ハッシュタグ #neverwalkalone2020 を付けてフェイスブックに演奏動画をアップしてください。

何よりも大事なことは、この困難な時期にお互いに助け合うこと、そして音楽が人々を結び付ける力を持っていることです。

素晴らしい動画を楽しんでください。そして、皆様が安全で健康でありますように。


鍵盤のお手入れと手洗いについて

新型コロナウイルスに関連して、鍵盤のお手入れや演奏前後の手洗いについて、グローバル・オルガン・グループが推奨している方法をご紹介致します。

「推奨される方法は、最初にエアースプレー缶を使用して鍵盤のほこりを取り除くことです。次に、ペーパータオルではなく、わずかに湿らせたマイクロファイバークロスを使用して、鍵盤を後ろから前に優しく拭きます。前から後ろや左右に拭いてはいけません。表面を無理にこすらないでください。白鍵と黒鍵には別々の布を使用します。頑固な汚れを取り除く必要がある場合は、研磨剤、ベンゼン、アルコールを含まない鍵盤専用クリーナーを使用してください。衛生上の目的のために、オルガニストは演奏の前後に手指消毒剤ではなく石鹸で手を洗い、完全に乾かすことが重要です。アルコールを含む手指消毒剤を使用すると、オルガンの美しい鍵盤に悪影響を与える可能性があることに注意してください。」




スウェルシャッターを手で?

先日パイプオルガンの演奏を聴きに行ってきたのですが、初めて見る光景に驚いてしまいました。それは、演奏中に助手が手でスウェルシャッターを閉じたのです。その後は演奏者がペダルを使ってまたシャッターを開けていたので、ペダルが故障していたわけではなかったのです。

普通は演奏者の足が忙しくてペダルを操作できない時は、助手がペダルを足で操作するようですが、このオルガンはそれほど大きくなく、スウェルシャッターは手が届く位置にあるので、横から足を伸ばしてペダルを操作するよりは手で閉める方が良いと考えたのでしょう。

(写真は実際のオルガンとは関係ありません。)



オルガンの足鍵盤

現在、パイプオルガンの足鍵盤の数は30鍵か32鍵が一般的です。

32鍵を必要とするオルガン曲が出てくるのは近代以降です。バッハを含め、ロマン派までのオルガン曲は30鍵で演奏可能です。

コンサートホールに設置されるオルガンは、どのような曲にも対応できるように32鍵が主流です。また、アメリカではAGOというオルガン演奏者の団体が決めた規格があって、これが32鍵と決まっています。



ヨハネスのオルガンは30鍵が標準ですが、Opus 350とEcclesia D-350は特注で32鍵にすることが出来ます。ロジャースのオルガンは32鍵が標準です。

ちなみに、ハモンドオルガンのようなポピュラー系のオルガンでは、フルスケールと呼ばれるものでも2オクターブの25鍵が普通です。

日本では足鍵盤の高さが緩やかにカーブを描いている凹型が好まれますが、ヨーロッパではフラット型が一般的です。従って日本でも教会等にヨーロッパ製のパイプオルガンが設置されている場合、足鍵盤はフラット型ということがあります。この練習用に敢えて自宅にフラット型の足鍵盤を希望される場合、ヨハネスではフラット型での生産も可能です。納品までに少しお時間を頂きますが、興味がある方はご相談ください。






パイプオルガンのオーバーホールの様子を紹介します。

住居などの建築物と同じように、パイプオルガンもおよそ15年から25年毎にパイプや部品を外しての大掃除や大規模な修繕作業を行います。今回はこの作業を写真付きでご紹介したいと思います。このオルガンはポジティフオルガンとも呼ばれ、小型で移動可能なパイプオルガンです。合唱の伴奏や、バロック時代の通奏低音、各種楽器とのアンサンブル、もちろんソロ楽器としても活躍します。




オルガンの正面です。四角い箱型で下にはキャスターが付いていて移動可能です。




内部のパイプ群。鍵盤の先に放射状に延びているアクションはキーと弁を結ぶ梃子(てこ)です。5種類の音色(ストップ)があり、金管、木管合わせてパイプは全部で280本もありますよ!上から見て、丸い頭が金管、四角いのが木管です。




パイプを出した後の様子、中はほぼ空っぽになりました。




職人さん、パイプを1本1本クリーニング中!パイプは錫と鉛の合金、皆さんご存知のハンダとほぼ同じなので、金属とは言えとても柔らかいので慎重に作業します。




パイプを乗せる台(パイプボード)をひっくり返しました。風を通す穴が見えます。




白い長板がスライダー、この上に思いパイプボードがずっしりと乗っかります。

ここでちょっと解説。
上の写真で縦に走っているワイヤーのような線(鍵盤数と同じ本数)は、鍵盤と弁を繋ぐアクションです。鍵盤を押すと梃子(てこ)を介してワイヤーが引っ張られ下側にある弁を開け、風が流れる仕組みです。でも、いくら鍵盤を押しても、風が流れる各音色の穴が一致しないと音は出ません。写真に縦長の白い長板の5枚のスライダーが見えますね(5音色分)。このスライダーは下と上の分厚い板に挟まれています。これらの上下の板とスライダーは全く同じ位置に穴が開けられています。もうお分かりですね。これら上中下3か所の穴が一致すれば風の通り道が出来ます。手元にあるレバーを操作するとスライダーだけが左右に動いて、穴を一斉に一致させたり閉じたりできるのです。

パイプや各パーツのクリーニングや補修が終わると、いよいよ作業も終盤です。




パイプの音を整える整音の作業中、一番神経を使う作業です。パイプの真ん中あたりに横長の穴が開いていますね。ここに下からの風が当たり、パイプ内部と外部に風が分かれ、空気の波が出来て音が出ます。リコーダーの原理と同じです。パイプの長さが長いほど音は低くなります。




パイプを1本1本丁寧に戻します。パイプはとても柔らかいので気を使います。




最後の作業、もちろん調律です。

【ポジティフオルガンの仕様】
製作:ベッケラート社(独)
ストップ:5列(5音色)
パイプ:280本(5列x56鍵)
郡山市民文化センター所蔵

皆さん、いかがでしたか。普段は見られないオルガン内部。パイプオルガンは規模もデザインも様々、こんなに小さくても立派なパイプオルガンです。興味を持っていただけたら嬉しいです。

オルガンビルダー 西岡誠一



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